むかしむかしのサイクリング「南四国〜九州縦断編」

南四国~九州7泊8日の一人旅。(昭和54年7月30日~8月6日)

約40年前のむかしのツーリング日誌を紹介します。
今、あの場所はどうなっているのでしょうか?誰か情報をいただけませんか? 
昔訪れた地を再び訪れる機会があったら、同じ場所で写真を撮りここで比較して紹介したいと思います。

7月30日(月)晴れ  

 今年の6月18日に完成したオーダーキャンピング車「あほうどり号」で足慣らしの旅に出る。ワクワクするなあ。 
 オレが通う高校は進学校なので、夏休みに全員補習授業を受けなくてはいけないので、今回は補習授業の合間を縫ってのツーリングとなり、しかたなく輪行となる。 
 ようやく前半の夏期補習授業が終わり、帰宅後すぐに愛車をバラす。因みに愛車は特別に10~12ミリの太いパイプキャリアを使用し、トップチューブにも特別に太いパイプを使った丈夫なオーダーキャンピング車。 
 4つのサイドバッグに荷を積み準備OK!。高岡駅22時58分発の急行立山6号に乗り、大阪へ向かう。 


7月31日(火)晴れ 


 4時15分大阪駅着。駅に着いたのは良いが、約30キロの荷物と愛車をホームから運び出すのが一苦労で、15分もかかってしまった。
 前途多難を感じながら薄暗い中、駅の隅で愛車を組み立てる。組み立てている途中、タクシーの運ちゃんが近づいてきて、「どこまで行くんや?タクシー乗らへんか?」としつこく強引にタクシーに乗せようとする。
 しつこい運ちゃんを追い払い再び組み立てる。ところがしばらくすると今度は酔っぱらったおっちゃんがやってきて話しかけてくる。適当に受け答えしオレが富山から来たことを知ると、自分の嫁さんは富山出身だと言い、財布から千円札を取り出し手渡そうとしてきた。でも、何か気味が悪く何となく恐かったので丁重にお断りした。ますます前途多難だなあ。

 5時30分頃組立完了。忘れ物が無いかチェックし、徳島へ向かうフェリーの待つ神戸港へと向かう。 
 8時30頃神戸港着。クーポン券に書いてあるフェリーの乗船場を探すがどうしても見つからない。近くにあった運送会社に訪ねると「ああ、それならここから10キロ程戻った東神戸や。」なんとむごい言葉。出港の時間まであと35分しかない・・・。とにかく東神戸に行かないことには話が進まない。いつもの行いが良いせいか、運良く強い追い風に乗り出港5分前に何とかたどり着いた。係員の指示で至急船に乗り込み船中の人となる。9時5分出港。 

 予定より15分遅れて12時20分に徳島着。生まれて初めての四国の地を踏み感動しながらペダルを踏み、最初の目的地徳島駅を目指す。 
 13時徳島駅着。文通相手の辻本さんと会い、猫の神様が祭られているという神社を案内してもらう。 
 16時頃辻本さんと別れる。すると急に走りたくなりテントを張るのを止め、日和佐まで足を伸ばすことにして、約55キロ先の日和佐ユースに宿泊予約をして国道55号線を南下する。2時間程度で着くだろう。 
 星越峠の登りにさしかかったところで、日はとっぷりと暮れてしまった。ダイナモを転がすと足が重くなるので、当然の事ながらバッテリーランプのスイッチを入れる・・・。ン?今初めて乾電池を入れ忘れたことに気づく。しかたなく疲れた身体に鞭を打ち、ダイナモを転がして走る。何度も峠に裏切られ、ユースに着いたのは19時30分頃。夕食の予約をしていなかったので、今夜は夕食抜きだ、辛い。夜行列車で前日は殆ど眠れなかったせいか、かなり疲れているので、入浴後ウミガメの産卵を見にいかずに寝るが、後で後悔・・・。 
 本日の走行距離約100キロ。

8月1日(水)晴れ 


 昨夜ユースで知り合った高知方面から走ってきたサイクリストに、高知までは1日で走れると聞き、目的地を高知に決めユースを6時に発つ。 
 静かな山に響く猟銃の発砲音を聞きながら走り始めて30分程たっただろうか?グルッと腹が鳴り、すぐに民家に飛び込む。昨日暑さのあまり欲求にまかせて10本くらい飲んだ缶ジュースのせいだろうか?約15分のロスタイム。腹をいたわりながら室戸岬を目指す。お腹の力が抜けちゃった。 

 9時頃高知県に突入。この県境の景色はどこかで見たことがあると思い、記念写真を撮ったところ、漫画「サイクル野郎」(荘司としお 著)のワンシーンに出ていたことに、家に帰ってから気づく。

 伏越ノ鼻を過ぎ、3キロほど走ったところでボトルの水を飲み干す。水をもらおうと民家を探すが全く見あたらない。そこからの約15キロは全くの水無し地帯。路肩で小さなパラソルの下でアイスクリームを売っていたが、まだお腹がおかしいので食えない。木陰で休むといきなりクマバチが襲ってきたので逃げるように走り出す。脱水に苦しみながらようやくお店を見つけて水をもらい胃に流し込み生きかえる。 

 11時55分、室戸岬着。原付に乗ってきたおばちゃんに岬でシャッターを押してもらい再び走り出す。途中で高知駅前ユースに宿泊予約をする。 14時頃から日に焼けた左腿がひどく痛みだす。左足が南を向くため、左側の日焼けがひどい。タオルを水で濡らして痛む腿に巻いて走る。冷房の効いている24時間営業の自販機ショップがある度に一息つく。  18時30分ユース着。恐る恐る入浴したが、何故か日焼けは痛まなかった。 

 ユースのハンドブックに、夕食にはカツオのたたきが出ると書いてあったので楽しみだ。カツオのたたきは、聞いたことがあるが食べるのは初めてだからだ。ハンドブックの通り夕食にカツオのたたきが出たが、自分の口にはあまり合わなかった。ミーティングの時間にスライドを使ったサンゴの話があったが、疲れていたので寝る。 
 本日の走行距離約170キロ。


8月2日(木)晴れ 

 昨日ユースで知り合った宮崎君・山本君と一緒に同じ目的地中村市へ向かう。途中山本君のお腹がおかしくなり二人とは須崎で別れる。ユースのおばさんがとてもきついと言っていた焼坂峠・中坂峠・七子峠を15時頃難なく越え、いよいよ七子峠のダウンヒルを楽しもうと下り始めるが、ペダルを踏まなければ止まってしまう程の強い向かい風に阻まれる。ダウンヒルが緩やかなせいもあるが、結局長い長いダウンヒルのうち楽しめたのはほんの2キロ程。精神的に上り以上に疲れてしまった。こんなつまらん峠は初めてだ。 

 18時40分。相変わらず強い向かい風と戦いながら、約束の時間に40分遅れて愛媛の友人の待つ中村駅に着く。彼は宇和島からの100キロの道のりを自転車で迎えに来てくれたのだ。 
 ユースに泊まろうと誘うが、ツーリングの費用を貯めていると言うので野宿をするという。それならオレも一緒にと思ったが、すでにユースに予約を入れてあるため野宿を断念する。ユースにはカンパのフルセットを組み込んだコルナゴのロードレーサーを、得意げに自慢する嫌な奴がいたが、彼の自転車は汚れて傷だらけ。イタ車にのる資格ゼロだね。 
 本日の走行距離110キロ。 

8月3日(金)晴れ

 今日は友人の大塚君と、彼の友人の松本君の3人で宇和島まで走るのだが、大塚君はランドナーにフロントバッグとシュラフ、松本君はロードレーサーにツーリングザックとシュラフの軽装備。30キロもの重装備のキャンピング車が一緒に走ろうってえのが間違っていた。

高知県と愛媛県の県境

 昨日と同じく向かい風の中を彼らに遅れまいと必死に走るが、登りで置いて行かれてしまう。峠で彼らは待っていてくれるものの、オレが追いつくと休む暇も無く走り出す。このとき彼らの顔が鬼に見えたのは言うまでもない。 
 いくつかの大きな峠を越え宇和島に着いたときは、もうへとへとに疲れていた。
 普通キャンピング車ならのんびり8時間はかけて走る距離を5時間あまりで走ったのだから当然かもしれない。こんなことだったら最初の予定通り足摺岬へ行けば良かった。しかし、我ながら自分の健脚に感心した一日だった。オレの足よお疲れさま。 
 宇和島に到着後、大塚君のよく行くショップでジュースで乾杯。それから、スペアスポークと指切りグラブ、室戸での経験を生かして、2本目のアルミボトルを購入。

 ショップのおっちゃんもいい人で、オレ達にアイスクリームをおごってくれたので、気に入ってしまった。おっちゃんサンキュー。 
 その夜大塚君宅で夕食(豚カツ2枚)をご馳走になりスタミナをつけさせてもらった上にお餞別まで頂いた。この時の彼らの顔がお釈迦様に見えたのは言うまでもない。現金なオレ。へへへっ。 
 フェリー乗船場で大塚君と富山での再会を約束、固い握手を交わして22時別府へ向かうフェリーの船中の人となる。 
 本日の走行距離約110キロ。

8月4日(土)晴れ 

 4時別府着。まだ真っ暗だ。フェリーのエンジン音で昨夜は殆ど眠れなかったので、とても眠い。宇和島で鹿児島ー大阪間のフェリーの乗船券を買うが2等寝台しかなく、予定外の出費。残金が心細くなり、早く家に向かいたくなりダイナモを回して霧、深くまだ暗い国道10号線を南下する。ここは南国九州だけど、さすがに早朝は涼しくて走りやすいや。ここからは宮崎までひたすら南下する。今日の目的地ははるか南の宮崎市。 

 山道で宮崎県に突入したところで小休止。道路の下を見ると川が流れている。その川で日に焼けた足を冷やそうと愛車から降り、20センチほど下の枯れ草地帯を目指してガードレールを飛び越えたところ、あるはずの地面が無くそのまま5メートルほど滑り落ちてしまった。泥にまみれ、あちこち擦り傷が出来、短パンとシャツは破れて、やっとの思いで這いあがってきた。
 枯れ草地帯と思ったのは、単に刈り取った雑草を捨てたゴミの山だったのだ。よく見ればこの場所以外どこにも枯れ草は見あたらない。自分のアホさ加減に呆れて、ついでに大休止。木陰にマットを敷いてお昼寝だ。

 18時10分、今夜の宿ユース浜荘着。例によって入浴し飯を食い花火大会も見ずに即寝る。  
 本日の走行距離約210キロ、自己記録だ。さすがにきつかった。 


8月5日(日)晴れ 


 昨日の疲れがかなり残っていて今日はとても走る気になれず、西鹿児島まで急行列車で輪行することにする。
 車中で全盲のおばあさんとその付き添いのおばあさん二人と仲良くなり、いろいろサイクリングの話を聞かせて上げたらとても喜んでくれた。
 初日の高岡から大阪までの夜行電車の混雑にうんざりしたため、西鹿児島で大阪ー高岡間の特急グリーン券を買ってしまい残金わずか3500円也。
 自宅まではまだ1000キロ以上の道のりがあるというのに馬鹿な買い物をしてしまった・・・とても心細い。 
 駅で自転車を組み立て、パトカーのお巡りさんに道を聞きフェリー乗船場へ向かう。
 桜島はあいにくの雲でよく見えなかったが、照りつける日差しとソテツの木々が南国を思わせる。いい気分だな。

  14時20分乗船所着。そこで今回初のパンク。出港まで4時間も時間があるのでのんびりと修理したあと、そこらを軽く走って暇をつぶす。 

 18時30分船中の人となり、鹿児島を後にする。さらば九州。

 船内の恐ろしく高い物価と心細い残金の関係上、約20時間の船旅の食事は、1個200円もするカップヌードル2個と大塚君宅で頂いた煎餅の残り2枚だけ。この日は昼飯を食べていなかったので、この空腹には参ってしまった。足りない分は水をがぶ飲みして飢えをしのぐ。 
 本日の走行距離約30キロ 


8月6日(月)晴れ後雨 


 今回の旅、最終日だ。 
 昨夜は接近していた低気圧の関係で船がかなり揺れ、回りの旅客は結構ゲーゲーやっていたがオレは全然平気。
 船のデッキから室戸岬が見えると言うので早速見に行くと、確かに遠くに室戸岬が見え、脱水に苦しんでいた自分を思い出す。海は静かで昨夜の揺れが嘘のようだ。しかし、腹減ったな~。 
 14時20分ようやく上陸し、大阪駅へハンドルを向ける。途中今回初の雨に降られ17時頃大阪駅着。愛車をバラしウナギ弁当をガツガツ食べる。5日の朝食以来の食事らしい食事だ。我ながら燃費の良さに驚く。 
 19時5分発の雷鳥31号で高岡へ向かう。ここまで来ればもう安心。ウナギ弁当では足りなかったので、食堂車で色々食べ、残金1000円。 
 23時8分、無事高岡駅に着くと両親が迎えに来ており24時5分自宅に着き今回の旅の幕を閉じる。早速風呂で旅の垢を落とし即、寝る。
 本日の走行距離40キロ。 
  
 ◆全走行距離約720キロ。

あとがき 


 当時はコンビニエンスストアなど無い時代で、24時間営業と言えば自動販売機ショップだけでした。元々無計画に旅行することが好きな私は、旅行期間だけを決めて、あとは行き当たりばったりの旅行を楽しんでいました。そのため、いつも金欠と空腹に苦しめられていました。
 そのおかげかどうかは知りませんが、私は非常に燃費がよく、一食当たり100㎞は平気で走ることが出来、本当にひどいときは旅行の最終日、朝食のビスケット数枚で自宅までの120㎞を走りきったこともあります。 
 本格的に走らなくなった今でもその燃費にあまり変化はなく、食べるときはたくさん食べるのですが、食べないときは全然平気です。 
 このツーリング日記を見ていただいて、レースとはひと味違ったツーリングの楽しみを知っていただければ幸いです。

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