中部一周9泊10日、720キロ一人旅。
(昭和56年3月25日~4月3日)
3月25日
昨日終業式が終わり、いよいよ今日から春休みだ。俺は今年は受験生なので、今回の旅が高校生としての走り納めとなる。
外は雨が降っているが、今日は輪行だから問題なし!
氷見駅までポンチョを着て走り、フル装備のキャンピング車「アルバトロス号」をバラす。
俺の住んでいる氷見市は漁師町の田舎なので、そばで見ていたおっちゃんは輪行など知る由もない。バラバラになった自転車を見て一言、「あ~あ、壊してしもうた」
「アルバトロス号」は、世界一周にも十分耐えるように輪行仕様にしないで、細部にわたって強度優先でオーダーしたため、分解して輪行袋に納めるのに1時間も費やしてしまった。
9時41分高岡駅着。特急白山4号を待ち、10時33分車中の人となる。
現在の所持金3万2千円なり。
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45分遅れで軽井沢駅に着き、また1時間かけて自転車を組み立て5時過ぎに本日の宿ユースホステル軽井沢友愛山荘着。
本日のホステラー14名。10時消灯。
本日の走行距離1.8キロ。
3月26日
昨日の雨が嘘のように晴れ上がり、浅間山もすごくよく見える。もう絶好のサイクリング日和だ!。
1年ぶりのキャンピングツアーのせいかペダルが少々重く感じるが、岩村田まではダウンヒルなのでらくちんらくちん。自然と鼻歌も出てくるぞ。
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方言はその土地の歴史でもあるので、サイクリングに出かけた時は出来るだけその土地の人と言葉を交わすようにしている。一番手っ取り早い方法は道を尋ねることだ。
岩村田を過ぎて佐久市を抜け、しばらく行くと上り坂になる。
この登りが実に長くどこまで行っても終わらないので近くを歩いていたおっちゃんに聞くと、幸いなことにもうすぐ下りだと言う。
ついでに本日の目的地、清里まではどのくらいかと訪ねると、車で1時間ほどとのこと。まあ、それはそれでいいんだが、清里はまだまだずっと高い山のてっぺんにあると聞き驚いた。
なぜなら俺は今まで清里は盆地だとばかり思っていたから、この坂を下ればすぐだと信じていたから、まさか高原だとは思っても見なかった。
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しばらく走るといよいよ問題の登りにさしかかる。
坂道はそれほどきつくないが、標高をかせぐにつれ次第に寒くなりしまいには雪が降り始めたのには参ってしまった。
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標高1345.67mの日本一標高の高い国鉄野辺山駅で休んでいると、先ほど手を振っていってくれたオートバイの3人組が話しかけてきて、ついでにレンタサイクルの女性2人組も仲間に入り話が弾み、もう一つ先の清里駅で再会することにして一旦別れる。
もう雪は降っていないがすごく寒い。下界ではTシャツで走れたのに・・・。
今日は清里で野宿の予定だったがこう寒くてはたまらない。
早速清里ユースに電話を入れ飛び込む。
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清里はとてもいいところだ。野辺山の雄大な自然、中でも夜空の大粒の星には大感激だ!
(後で知ったことだが、清里は避暑地として若者に人気が出てきている所だそうだ。勉強不足だな)
本日の走行距離65キロ。
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3月27日
7時半にユースで知り合った仲間に見送られて出発。
今日は身延を通り三保の松原まで120キロの走行予定だが、昨日湯冷めしたせいかどうも体調がすぐれない。風邪をひいたようで鼻水がでる。グスッ。
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35°56’01.0″N 138°27’07.1″E
清里から5分ほど下ると遠くに小さく富士山が見えたので、感激しながらシャッターを切る。
韮崎市までの30分ほどの間はほとんど下りなのでらくちんらくちん。しかし、ペダルを踏まなくていいぶん体が冷えてものすごく寒い。
おっ!今日は追い風だ!手袋とゴーグルをつけて一気にダウンヒルを下る。
太平洋へ出るまで峠をたくさん越えないといけないが、地図をよく見ると幸いなことに峠を避けるように川沿いの別ルートがあるので身延から国道を離れるコースに変更する。
しかし、これが間違いのもと。道はだんだん悪くなりついには行き止まりだ。
全くついていない。川の数百メートル向こうには国道52号線が見えるではないか!「いっそのこと自転車を担いで川を渡ってしまおうか」なんてことも考えたが急がば回れだ、もと来た道を戻ることにする。
自分のドジで約1時間のロスタイム。
今来た道を身延まで戻り、黙々とペダルを踏むことにする。
いくつか峠を越えているうちに富士山がとてもよく見える峠に着いたので、大休止を取ることにする。
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さて、疲れも取れたので再びペダルを踏む。
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もうここは静岡だ。あちこちに茶畑が目に付く。
3時過ぎに三保の松原に着き、早速テントサイトを探す。
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サイクリングロードのそばにいい場所が見つかったのでテントを出し組立始めると、子連れのどうしようもない酔っぱらいが絡んできたのでスタコラと逃げる。
酔っぱらいは手に負えないからどうも苦手だ。また別のテントサイトをさがさにゃあならん。
幸いキャンプ場を見つけそこにテントを張るが空き缶やゴミで汚いのなんのって、もうものすごいところだ。おまけに俺以外にテントは無くものすごく寂しい。
早めにご飯を炊きボンカレーで夕食を済ませ、日が落ちると同時に寝袋にもぐりこむ。
本日の走行距離120キロ。
3月28日
ものすごい寒さで目が覚める。こりゃあ完全に風邪をひいたな。頭痛と鼻水がひどい。
5時過ぎに目が覚め風邪薬を飲むがほかにすることもないのでテントをたたみ6時40分に走り始める。
羽衣の松を見てもまだまだ時間があるので予定外の日本平に登ることにする。
あとで聞いた話だが羽衣の松では首吊りの自殺が時々あるそうで、よく幽霊が出るらしい。
知らなくてよかった。
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日本平までの5キロの上り坂を一気に登ったが、新日本百景の一つに数えられる大パノラマは生憎の曇りでさっぱり見えない。
仕方がないので記念写真を撮り自転車通行禁止の標識を見なかったことにして有料道路を下るが、料金所でやっぱり注意されてしまった・・・。
有名な登呂遺跡を見学し、お土産に小さな埴輪を買い御前崎へとハンドルを向ける。サイクリングをしながら歴史の勉強・・・俺は、なかなかの勉強家である。
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予定では御前崎で野宿のはずだったが、ずいぶん早く着いたので浜岡原子力館へ立ち寄り歴史に続いて科学の勉強もして天竜川まで足を延ばすことにする。
日も暮れかけた頃ようやく天竜川下流に着いたので食料を買い込み河原でテントを張り、近くの民家で水をもらってメシを炊き寝袋にもぐりこむ。
でも、急いで炊いたメシは芯が残りしかも砂も入り込んだようで、ジャリジャリとまずかった。
本日の走行距離110キロ。
3月29日
寒い、昨日以上に寒く4時に目が覚める。頭も相変わらず痛い・・・。
急いでストーブ(携帯用コンロ)でテント内を暖めて、昨日買い込んだ「缶入りおしるこ」を暖めて暖をとる。
体を休めるために今日は野宿を断念し、宿泊地を浜名湖ユースに決め7時頃出発する。
かなり早く浜名湖に着いたので自販機ショップで数時間休む。
再び走り出し1時過ぎに浜名湖ユースに着くがこのユースは受付が午後4時なので、丸3時間ユースの前をうろつく。
元気なら浜名湖を1周するんだが、このユースはすごい急坂の丘の上に立っているので、体調のすぐれない今は一旦降りてしまうともう戻って来られないような気がしたので、ボーっとする事に徹した。
ここで軽井沢のユースで知り合った高野君と再会する。
受付を済ませて早速お風呂に入るが湯船に排水が逆流したみたいで、たちまちどぶ臭いお風呂になってしまった。
体調はあいかわらず悪いので、洗濯を済ませてすぐにベッドに入る。
本日の走行距離20キロ。
3月30日
ダメだ。
今日は全くダメだ。
体調は最悪でどうも熱があるようだ。
ユースで解熱剤をもらうが全く効かない。しかし、走らないと帰れないので仕方なくユースで知り合った4人組と名古屋方面へハンドルを向けペダルを踏む。
旅の中断だけは避けたいので、走れるところまで走ることにする。
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4人組とは途中で別れ俺は今日宿泊予定のユース幡豆観音へ向かう。
風邪のため野宿が出来ないので金は減る一方だ。もう予算をかなりオーバーしている。
あぁ、心細い。ペダルも重い・・・。
1時頃ユース着。なんとこのユースはもう受付をしてくれる。
生まれて初めてのお茶をペアレントのおばさんにたててもらい、お手前をいただいたあと部屋に戻ってしばらく横になる。
ウトウトしていると、文通相手の名倉さんが西尾市からわざわざ手製のアップルパイを届けてくれ、感激!そしてそのおいしさに再び感激!
今日のホステラーは俺一人なので、この広い部屋は俺一人のもの。まだ出来たばかりなのでとてもきれいで気持ちいいことこのうえない!
夕食にはユースの食事とは思えないくらいの豪華なメニューで、おかずだけで10品目以上もある。「ちょっと待て!いくらなんでもこれは豪華すぎる」と思い不安になりながらあたりを見渡すと、料金表があり、夕食600円を確認してホッとする。
おかずだけでお腹がいっぱいになった後、入浴して薬を飲んで早めに寝る。
本日の走行距離約50キロ。
3月31日
ザーッという、サイクリスト泣かせの雨の音で目が覚める。今日は昨日アップルパイを届けてくれた里恵さんと会う予定なのに全くついていない。
9時に西尾駅で待ち合わせるが雨が降っていてどうしようもないので、駅前のファーストフードの店で彼女と3時間ほど時間をつぶした後一旦別れ、名古屋の伏見駅で再度待ち合わせることにして、愛車の所に戻ると指切りグラブとブーツカバーが片方ずつ盗まれている。
そのうえ、予想外の強い向かい風に苦戦して約束の時間に大幅に遅れ待ち合わせ失敗!さらに名古屋ユースでは夕食も食べ損ねてしまい、さんざんな一日となってしまった。
本日の走行距離45キロ
4月1日
今日も雨だ。こんな日は走るのが嫌になるぜ!もう熱は無いが相変わらず体調は悪い。
一瞬輪行で帰ろうと考えるが、ここまで来て中部一周を断念するのもしゃくなので気を取り直して走ることにする。今日の宿泊予定地を琵琶湖当たりに決め、出発する。
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とにかく財布の中身が心細いので昼食はポテトチップス1箱だけ。
関ヶ原を途中の自販機ショップで出会ったロードレーサー乗りと一緒に越えるが、向こうは超軽装備なのに重装備の俺が先に峠に着いてしまった。彼とは国道8号線で別れる。
気温が下がってきたのかかなり冷えてきたので、もう野宿するのがいやになる。体調が悪いと心の方も弱くなってしまうようだ。
土産物屋さんで休憩していると、熊本から走ってきたというサイクリストに賤ヶ岳ユースへ行こうと誘われ、本当に残金が少ないのに宿泊する事にする。
夕食は自炊でご飯だけにしよう。
水をおかずにご飯を食べていると同室の人が気を利かせてくれて、食堂から味付け海苔を持ってきてくれた。今度からはふりかけが必要だな!
本日の走行距離110キロ
4月2日
ザーッ・・・また雨だ。天気予報によると大雨強風波浪注意報が出されている。さらに風邪がまだ治りきっていないので、喉が痛くて声が出なくなってしまった。もう最悪だ。
自炊室でご飯を炊き、また味付け海苔で腹に詰め込む。
残金4千円足らずだが自宅まではまだ200キロ以上もあるし、この体調と天候では野宿は自殺行為になりかねないので、思い切って福井ユースに宿泊の予約を入れる。
もうどうにでもなれ!福井ユースまでたどり着けば、あとは130キロ。1日で十分走れる距離だ。
大荒れの天気は予想以上に厳しく、滋賀から福井の間では国道8号線の敦賀街道が特にきつかった。アップダウンは多い上に大型トラックが通る度に泥水を思いっきりかけられ、おまけに台風並の強風にあおられガードレールに何度も接触し、挙げ句の果てには後ろの変速機まで調子が悪くなってしまい、何度もトラックを拾おうと思った。
わずか80キロの道のりに8時間もかかってしまい、やっとの思いでたどり着いた福井ユースは急な坂道を上った小高い丘の上にあり完全に止めを刺されてしまったが、それだけにユースに着いたときは本当に嬉しかった。
チェックインを済ませた財布の中身はわずか1500円足らず。富山まであと130キロだ。
本日の走行距離80キロ
4月3日
やったー!昨日の大荒れの天気が嘘のような快晴だ!ユースで知り合った仲間と記念写真を撮り、7時半にユースを出る。
お天気がいいうえに、なんと弱い追い風だ!
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今日、家に帰れると思うと自然にペダルに力が入るが、このまま旅を続けたいとも思う。これは、いつも思うことだが・・・。
途中で朝食と昼食を取り、約7時間半後、中部一周完走の満足感に浸りながら帰宅。残金573円なり。
本日の走行距離130キロ
全走行距離720キロ
あとがき
いつもこんな感じで無計画に出かけるので、毎回と言っていいくらい途中で金欠になってしまいます。まあ、これはこれで今となってはよい思い出なのですが・・・
20年ほど前に車で長野を訪れる機会があり、懐かしの野辺山や清里へ足を延ばしてみたのですが、当時の面影は殆どなく、野辺山駅はきれいに改築され清里は若者たちがひしめき合い、ホコリで薄汚れたサイクリストなどはとうてい似合わない場所となってしまいました。それでも繁華街を少しはずれれば相変わらずの広大な自然と澄んだ空気が私を迎えてくれました。
身延近辺の途中で行き止まりとなっていた道路は、現在は県道16号線として開通しているようです。
余談になりますが、現在の浜名湖ユースホステルには小さな天文台があり、天気の良い夜には天体観測を実施しており宿泊者には星を見せてくれる、私のお気に入りのユースホステルの一つです。
このツーリング日記を見ていただいて、レースとはひと味違った自転車の楽しみを知っていただければ幸いです。
私の下手な文を最後まで読んでいただいてありがとうございました。メールでご感想などもお聞かせ願えれば幸いです。
あとがきのあとがき
本当の最近の清里はゴーストタウン化して当時の賑わいが嘘のように廃墟ばかりが目立つようになっているそうです。
また、中部一周で利用したユースホステルは、清里ユースホステル以外全て無くなってしまっているようで寂しい限りです。
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